農業振興ビジョンはないけど、農振指定するって
地主会との協議に札幌市農政部長を含め7名がご臨席。
耕作放棄地ばかりになったのは誰のせいかな?
紆余曲折を経て、地域の地主会と札幌市の農政課、市農委との間で協議が行われたのは11月9日のことだった。場所はJAさっぽろ手稲支店の会議室。地主会からは会長、副会長、事務局長、相談役の私を含め5名、札幌市からは農政部長兼市農委事務局長の長谷川正彦氏のほか市農委次長、農政課長ほか7名が出席した。
冒頭で、地主会事務局長が「農振地域に指定されているが、農家を続けようという意識の人はほとんどいない。専業農家で生計を立てようという動きもほとんどない」と述べ、地域の農地の状況について一部で牧草をつくっている程度、家庭菜園みたいなもの、市民農園のほかは耕作放棄地ばかりと説明。「札幌市は農振農用地区域を継続していいのか、市はどのように地域を誘導していくのか、農家の自助努力が足りないから農振の位置づけが曖昧になっているのか」と迫った。
これに対して、長谷川農政部長は「担い手や後継者が育たない、遊休地が増えるというのは前田だけでなく全市的な状況。市内各地区の農業振興ビジョンを描き切れていないというのが正直なところだが、前田地区は10ヘクタール以上の集団的農地ということで指定しており、今後も農用地指定はしていきたい」と発言した。
俺だけ許可が出ないってどういうことよ?
協議の内容は議事録にまとめる、即答できない質問には後日文書で回答するという約束事があったせいか、札幌市農政の面々は慎重に言葉を選ぶというより、ほぼ相づちを打つだけだった。
私はせっかくの機会なので、「農振を抜きたくないっていうけど、それなら路線価でかかる相続税をどうやって生み出せばいいんだ」という質問を皮切りに、経営破綻してビニールハウスや土地を競売に出された地域の花卉農家を救うために私の息子が入札に参加しようとしたところ市農委に断られた件(近々に紹介する予定)、市農委の元会長は農地内での自宅建設が許可され無許可で建てた倉庫も追認されているのに、どうして私の自宅の時は許可されなかったのか…など、疑問に思っていたことをバンバンぶつけていった。
後日送られてきた議事録にも残っているが、勝手に農振地区に入れて、勝手に酪農団地を持ってきて、それで人の農地を傷つけて経営を妨害するのが札幌市のやり方なのか! というのが私の主張だ。
札幌市が勝手なことをやるなら私も勝手にやらせてもらう。文句があるなら告発して裁判に回してくれ。札幌市と話し合うより警察や裁判所の言うことを聞いた方が白黒ハッキリする。裁判で負けたら建物を撤去すると改めて宣言した。
写真=経営破綻した花卉農家のビニールハウス。私の息子が競売に参加して救済しようとしたが、札幌市農業委員会に断られたため、地主会の会長に代理で競落してもらい、花卉農家の娘さんを後継者として地域に迎えた。
荒地なのに農地? 現役農家としては納得できない。
私のコンテナハウスの話題に入る前に、地主会の会長からも札幌市内の農振地域について疑問を呈する声があった。
※
会長 私と副会長は現役の農家だが、農家といいながら農地を持っている人という認識の方が札幌市全般でも多いと思う。名ばかり地主も集約して10ヘクタール以上の農地が確保できるから農振地域に指定するというが、現役農家が自作している割合は少ない。
この時期に地方に行くと、暗渠土木や農業用排水などの農地整備に重機がどんどん入っているが、札幌市内では見ない。農業委員会事務局は現場に行っていると思うが、視察するたびに耕作放棄地がどんどん増えているはず。それが農地法では健全な農地だというのを、現役の農家としては突っ込みたくなる。
荒地なのに何で農地なのか? 健全ではないなら、どういう指導をしているのか? 指導したいけど実農家でないというなら、その農地はどうするのか? 農振指定された地域に関しては、ちゃんとした指導なり、農業施策を上手く使えるようにしてもらわないと、現役農家として納得がいかない。
※
地主会の会長は、自身が開設している市民農園の利用者がほぼ全員リピーターとなっていて、複数区画を借りたいと申し出る人も多い現状を踏まえ、私が思い描く農業体験型コンテナハウス構想についても意見を述べた。
※
会長 次の世代がなかなか育たないというのは、経営面というか、安定した収入があるかないかの話だと思う。新規就農はいろんなハードルがあって大変。そこに身もお金も投じて新たに取り組もうという人は、すごく低いパーセンテージだろう。田中さんの言う滞在型で、少し広い面積で、自分の農地に集えるくらいというのは、市民農園とは別のカテゴリーで考えてほしい。
例えば、耕耘機やミニトラクターなどはレンタルにして利用者のリスクを減らす。夏場しか利用できないわけだし、トラクター1台を買う、倉庫1棟を建てるのも大変。「私は夏野菜をつくります」「秋野菜をつくります」といった集合体のなかで、コンテナハウスに滞在できたり休憩できたりすれば、「トウモロコシは朝もぎがおいしいから、ここで休んでいく」という流れができる。
立地条件が良くて直売所などもあれば、生産者は労働の喜び、販売の喜びもあるという風になるのではないか。私は「自分もやれる」という人が出てくるんじゃないかという希望を持っている。
次の世代が少ないことは分かっているので、どうすれば農地を健全に保全できるかといえば、将来的にあっていい選択肢の1つなのではないか。(田中が)勝手にやりましたではなく、行政にもそういう選択肢を考えてほしい。
写真=札幌市東区の市街化調整区域にある「健全な農地」。市農委の利用状況調査では、耕作しようと思えばできる状態なので荒地でも耕作放棄地でもないとか…。
農振地区に入れる際に「役所は詐欺を働いた」
農業体験型コンテナハウス群の整備に着手する際には、私が勝手につくったパークゴルフ場の一部を農地に戻すと市農委に伝えてある。札幌市農政の方針に合っているのだろうし、それでも支援しないと言うなら争うしかないと私が宣言したところで、現役農家である地主会の副会長が口を開いた。
※
副会長 私たちの前田地区を農振に入れる時に、(札幌市農政の担当者と副会長の実父の間で)「あなた、困っていることはありませんか?」「水が必要だが井戸がない」「農振に入ればやってあげますよ」「それじゃあ入るわ」という経緯があった。でも、入った途端に掌を返して「そんなこと、あなたのためにやるわけないでしょ」。ほとんどのところは、そうやって入れたと思う。
当時、百姓に裁判をするという概念があれば、おそらく詐欺で訴えていた。役所は詐欺を働いたというのが、私の頭にある。
その後、「おまえのところは農振だから、あれもダメこれもダメ。農振法に従ってやってくれ」。みなさん、今でも法律を守ってやっているだろうから、違反しているものに関しては1つ1つきっちり摘発するなり訴えるなりすべき。
イメージ写真
山口地区にもずいぶん倉庫が建っている。最初は農業用のつもりだったのだろうが、じきにみんなそれを貸して不動産収入にしている。そんなところは前田にもたくさんある。そういうのを1つ1つ押さえていれば、こんな大きなこと(私の違反転用)にならなかったはず。法を守る人たちが手抜きをしたために大きくなった。農地法違反をしていない農家が何軒いるのか。
今からでも遅くないので、例えば「コンテナは違反だからダメだ」と早め早めに訴えていって、高等裁判所でも最高裁判所でもいいが、「この法律はこうだ」と決めてもらえば百姓はそれに従う。それをせず、ズルズルと「あんたのところは違反、もう許可を出さない」では法律の適用をきちんとやっているとは言えず、ただのイジメ。ここまではいい、ここからはダメという線をきちんと見せていただきたい。
※
地主会の副会長は、他市町村の農家仲間から聞いた話を基に、行政区によって農業委員会による農地法の運用が異なるのではないかとの疑問も質した。
「農地法のために百姓をやっているわけじゃないが、全国の百姓が同じ条件で農業をやるためにも裁判をやってほしい。小さいうちに芽を摘んでおけば話は早いのに、大きくなってから『お前のところは違反だから、あれもしてやらない、これもしてやらない』ではタダのイジメだ」
文句があるなら告発しろ、と逃げも隠れもせず正々堂々と「正当防衛」している私も、大いにうなずくところがあった。
写真(イメージ)=農業用倉庫を貸し倉庫に「転用」しているケースはザラにあるが、発覚するのは氷山の一角。是正した後に再び転貸するツワモノも多い。
長谷川農政部長から口頭指導をいただいて終了。
協議は1時間半ほどに及んだ。かなり端折った説明になったが、終盤にはコンテナハウスの所有者や仮置きした目的などを確認した後に、長谷川農政部長から原状回復(撤去)を求める口頭指導があったので、裁判で負けたら撤去することを約束した。
札幌市農政は、議事録と質問への回答を文書で寄越すことを確約した。協議としては、それなりに実のあるものになったと思う。札幌市の回答を楽しみに待つことにした。(つづく)