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農家にメリットがない農振農用地への指定

市街化調整区域の農地じゃダメなのか

補助金で百姓を食い物にするな!

住民説明会は8月2日の午前、JAさっぽろ手稲支店の2階会議室で開かれた。札幌市からは農政課の課長と係長、議事録担当の職員3名、地元の地主会側からは会長と副会長以下、27名が出席した。

con5-1.JPG農政課長 平成3年に私が農政部(当時)に来た時、手稲前田地区には酪農家が10戸くらいあり、酪農を中心に牧草や麦、大豆などが作られていたと記憶している。20数年が経つなかで酪農の農家さんもどんどん減ってきたが、市民農園としての活用などさまざま展開がなされる中で、地域は農地として保全されてきたと理解している。

農政課長は地域の現状をこう述べた上で、「国はまとまった農地については保全せよとしているので、『高齢で農業ができなくなった』『農業では食べていけない』ということであれば、新たな担い手に農地を貸してほしい。農用地には農業振興のための補助など必要な支援が行われるので、この地域を引き続き農業振興地域として保全していきたい」と、指定継続の方針に変わりがないことを強調した。
これに噛み付いたのが、地主会の副会長だ。

副会長 農振法を解除してくれと言っているのであって、宅地にしてくれと言っているわけではない。農振に入っていると土地の評価がひどく下がるので、売ったとしても生活するのは大変。なぜ農振じゃないといけないのかという説明が聞きたい。
農政課長 農振法に関わらず農地は農地なので、売買の対象は基本的に農家ということになる。実際に売れるかという問題もあるが、農振法を活かした方が納税猶予などメリットはあるのではないか。農用地に指定されていれば、農地を借りる側も土地改良などの支援を受けることが可能になる。
副会長 農地を改良するにしても行政が絡むと定価買い。半分補助と言いながら、2倍かかれば自分で出す金は結局一緒になる。酪農団地もひどく高い金で建てているが、自分でやれば割引できるから出す金は変わらない。そこを勘違いされては困るし、行政の補助を使えばその後の“縛り”が長い。そんな制度は有難迷惑だ。
さらに言えば、酪農団地が来る時に元の地権者から土地を買った人がいて、すぐ(事業主体の北海道農業)公社に転売し、それを酪農団地が買った。転売すれば税金がかかるが、それでも懐が潤ったのだろう。そう考えれば、最初に損をしたのは高く売れたはずの土地を買い叩かれた元の地権者、次に損をしたのは土地を必要以上に高く買わされた酪農団地。これは補助金のせいだ。
百姓を食い物にする制度を理由にしてほしくない。農地のままでいいから農振を解除してほしいと我々は言っている。市街化調整区域の農地で十分。「お前のところ農振だからな」と足下を見られることもなくなるし、何のメリットもない農振に指定するのはやめてほしい。

写真=土地所有者20名の反対署名で実現した住民説明会には、署名者数を上回る地域住民が参加した。

「事業ゼロ」の農用地指定は要らない

農政課長が「そういう事例もあるかも知れないが、全てがそうとは思わない。国の制度を使いたいから農振に入れてほしいというケースもある」と曖昧なことを言うので、「入れてもらいたい者は、どんどん入れてやればいい。選択の自由があっての民主主義だろう」と私。
「補助金をがっぱり注ぎ込んだ酪農団地に雑排水を流されて、どうしてくれるんだって話だ。行政の指導もないし被害も認定しない。そんなところで農家をやれるわけがないんだよ」と続けると、地主会の会長も口を開いた。

con5-3.jpg会長 秋に地方都市に行くと、あちこちの農地に重機が入っている。地方では積極的に農地の改善整備を行っているわけだが、札幌ではどうなのか。事業を行わないのなら農用地の指定は要らないし、指定するからには農業振興についての整備計画を説明すべきではないか。
農政課長 補助事業であっても必ず自己負担が伴う。地域をどういう方向に持っていくかという合意が必要で、行政も一緒になって考えていきたい。
会長 札幌市の(基盤整備事業の)実績は。
農政課長 過去は分からないが、直近では要望が上がっていない。
会長 地方都市は主たる産業が農業だが、札幌はそうではない。だから農業者にそこまでの意欲もないし、行政に農業を引っ張っていく力も実績もない。地域での協議と言うが、農業を担っていない土地の名義だけを持っている方々だから、次の担い手はいるのかという話になる。
農業に関わっていない地主さんでも納得できる整備計画なりの叩き台がなければ話し合いもできないが、牧草地の収入は1町歩(1ヘクタール)で10万円もない。酪農が生業ならともかく、飼料の販売では全く合わない。

写真=秋になると道内各地で農業基盤整備事業が見られるが、札幌市の実績はここ数年ゼロだとか…。(写真は国交省北海道開発局HPから拝借しました)

私を訴えて「法の下の平等」を!

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この後、話題があちこちに飛んだ。副会長が地主会側が用意した資料を基に、農振からの除外が農業委員会や市町村ごとにかなり恣意的に判断されていることを追及すると、
農政課長 我々は法律に基づいて動いているので、農用地区域からの除外要件に合致するかどうかで判断する。この地域については面積も含め要件に当てはまらない。先に農用地だと土地評価が下がるという話があったが、そもそも農家でなければ農地を買えない。
副会長 今は農地を担保に市中銀行から金を借りられる。かつては農協しか貸さなかったが、時代は変わった。また、法律に基づいているというが、資料を見ればゴルフ練習場にしても「ノー」という農業委員会もあればそうでない農業委員会もある。1つの法律なのに解釈は全国一律ではない。法の下の平等が侵されるから、田中賢三を訴えて最高裁まで争って、法律を確かめてくれ。田中賢三は訴えられたからといって引っ繰り返るような人ではないから、やってほしい。
会長 農政課長は先ほど、過去には酪農家が10戸ほどいたと言ったが、今では1戸だけだ。そこも後継者がいないので、今やっている方がやめれば生産農家はいなくなる。とうに把握していると思うが、ここもどんどん荒地ばかりになり、公共施設や学校施設の周りが雑草だらけ、柳の木ばかりの鬱蒼とした林のようになるのは分かっているのではないか。
農政課長 札幌市に限らず担い手不足は深刻で、農地の荒廃についても食い止めることは難しい状況にある。新たな担い手の育成や農業に参入したい企業の誘致も考えているが、(手稲前田の)50、60ヘクタールの農地を一気に埋めるという話にならないことも分かっている。ただ、札幌市は調整区域の開発をこれ以上は進めないという都市計画を決定しているので、農政サイドには農地は農地として保全する使命がある。

使命と言えば聞こえはいいが、ここ数年は農業基盤整備等の実績がないと農政課長が明言しているのだから、「農民が食えなくて泣こうが関係ない。ただ、農地を転用させないことが農政の使命だ!」が実態だろう。
逃げずに住民説明会を開いた点は評価するにしても、お役人が肥え太るための農政なのは相変わらず。農民が痩せ細って散り散りになっていくのも当然だろう。
その場で即答できない質問には後日に文書で回答するとの約束を交わし、説明会は散開となった。

写真=農民には実質的に何のメリットもないというのに、「農振指定する使命がある」とは理解に苦しむ。