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こっそり「農業振興地域整備計画案」が公開中

空念仏の現行計画はどう修正されているのかな

前触れなく計画案の縦覧が始まったみたい

札幌市の「農業振興地域整備計画案」の縦覧が、前触れもなく12月19日から開始された。もともとは12月中の計画決定を目指していたらしいが、遅れた理由は札幌市のホームページにも書かれていない。
縦覧場所は市役所本庁舎15階にある農政課の一画。農水省のガイドラインに沿って30日間の縦覧期間を設けた体裁だが、土日や年末年始の休庁日は見られないので実質17日間しかない。1年で最も慌ただしい時期なので、縦覧開始に気付かない人も多いだろうし、関心はあっても市役所に行く時間をどうしても取れない場合もあるだろう。まあ、それが札幌市の狙いなのかもしれないが。

計画案の内容は現段階(平成29年12月21日)では知らないが、現行計画では「農用地等の保全計画」として、農用地区域を中心に農地の流動化支援策や市民農園の整備に向けた施策を推進するとしている。
手稲前田地区の農用地区域にはすでに2カ所の市民農園が開設されており、地域全体では4カ所もある。現状はどこも人気で区画はすぐに埋まってしまうようだが、これ以上増えれば需給バランスを崩す可能性があるだろう。そもそも、この農振地域は使い途のない土地をさっさと売却してしまいたい非農家ばかりで、多くの地権者は地域から離れて住んでいるため、市民農園に関心を持つ人はかなり限られる。
con7-1.jpgそうなると、札幌市の施策は国が進める農地流動化なるものの支援に傾かざるを得ないが、農地中間管理機構(北海道の場合は公益財団法人北海道農業公社)を通じて借り手が見つかったとしても、札幌市が公表している賃料では親から譲り受けた土地を赤の他人に任せる気にはならないのも当然だ。
仮に、芝農家の技術を生かして私がつくったパークゴルフ場の敷地を全て北海道農業公社経由で貸すとしたら、10アール当たり3100円の平均賃料(昨年度)で年間78万円弱。昨今はパークゴルフ場の人気も下火だが、それでもその20倍以上の純利益が出ているので収支は大幅マイナスとなる。
また、パークゴルフ場コースの一部として、不在地主から約3ヘクタールを年間150万円で借りているが、札幌市の指導に従って農地流動化にスイッチしたら、この元農家が得るのは16分の1以下の9万3千円しかない。これでは申し訳なくてパークゴルフ場から手を引くわけにいかない。
農林業が基幹産業である地方の過疎地域ならいざ知らず、農振指定がなければいくらでも利益を生み出せる利便地を、どうしてタダ同然で貸す気になるというのか。農地法、農振法は都市も地方も一緒くたに扱う時点で、地域の実情を反映できない「悪法」になっているのではないか。

写真=普通は公示の前に知らせるものだろうが、縦覧開始の翌日になって札幌市のホームページでひっそりと告知。見てほしいのか、見られたくないのかハッキリしてほしいね。

この地区に憲法で保障された「財産権」はないの?

手稲前田地域の土地所有者がタダ同然で農地を貸すのに抵抗感を持つことには、別の事情もある。
con7-2.jpg1つには、札幌都心のテレビ塔まで14キロ弱、法定速度で約30分の距離にありながら、前田森林公園の豊かな自然に恵まれ、残る3方面を市街化区域で囲まれた手稲前田地区には、農振に指定された後もたびたびディベロッパーから開発話が持ち込まれてきたことだ。
宅地造成、ショッピングセンター、大型ホームセンター…と計画は多岐にわたるが、農振農用地の壁に阻まれて今年(平成29年)の夏に頓挫した医療施設を併設した宅地造成計画で、ディベロッパーが下手稲通り(道道452号)に面した約10ヘクタールの土地所有者に示した買収価格は1坪当たり約2万円。JAさっぽろ手稲支店の評価額(約2万4000円)は下回るものの、こうした話に何度か接してきた土地所有者にしてみれば、10アール(約302.5坪)当たり年3100円で貸せと言われても「農振だからって足下を見てバカにするな!」と怒りの感情しか湧かない。
そもそも、この地域の土地所有者は、昭和49年に農振農用地に指定された時点で経営難や後継者不在で営農意欲を失っていた。世代交代が進んだ今は、土地所有者のほとんどが非農家だ。半年前まで売買話があった約10ヘクタールで言えば、土地21筆に対して権利者は19人で現役農家はゼロ。10ヘクタールを中間機構を介して平均賃料で貸せば年間31万円、19人で頭割りすれば年間1万6000円強。これでは、地域を離れた人が多い非農家と元農家で調整しようという気になるはずもない。
だいたい、約2万4000円という評価額自体が、立地を考えれば不当に低い。下手稲通りを挟んだ市街化区域の公示地価は坪約8万8600円、新川通りを挟むと坪約13万円、防風林を挟んだ石狩市側は坪約7万円。
事態として公共の福祉に資するところはないのに、正当な補償もなく私有財産の用途を制限して日本国憲法で保障された財産権を侵すのが、手稲前田地区にとっての農振制度なのだ。

写真=下手稲通りを挟んで資産価値に大きな差。農振指定の前では憲法で保障された財産権など存在しない。(土地代データ(https://tochidai.info)より)

飼料畑で食えるわけがないのだが…

con7-3.JPG現行計画の「農業近代化施設の整備計画」にある地域別の整備の方向は、タチの悪いジョークとしか思えない。
手稲前田地区は、すでに酪農団地として整備され、主に飼料作物が生産されていることから、良質粗飼料の安定生産を図るとともに、家畜ふん尿の堆肥化を促進するため、堆肥化施設・機械の整備を誘導する。
現在、この地区に酪農家は1戸しかないが、ここは相当以前に堆肥化の設備を入れている。後継者がいないので初老となった現在の代での廃農が決まっており、新たな投資などするはずがない。
では、これはどこを念頭に入れての文言かといえば、この地区に混乱を招いた酪農団地(1戸だけだが)に違いない。だが、酪農団地は現行計画が決定(平成23年2月)された翌年くらいに廃業しており、当然ながら施設整備などしていない。
おそらく札幌市は、経営状況の調査など全くせずに「空念仏」を入れたのだろうが、でたらめな机上の作文を恥じない面の皮は、よほど厚いに違いない。

ところで、札幌市農政は手稲前田地区の農用地利用として、やたらと飼料畑を押してくるが、それで生計が成り立つと思っているとしたら、頭がお花畑になっているとしか言いようがない。
そもそも、酪農で食えるなら後継者もいるだろうし廃業もしない。この地区には1戸だけ牧草ロールの販売をしている農家がいるので、そこで飼料畑の収支を聞いてみたが、
「施肥と刈り取りだけをして牧草を売っているけど、プラス収支のわけがない。でも、この辺の農家はほぼウチみたいな第2種兼業農家だから、本業の収入と合算することで農業の赤字を節税に使えて、トータルではプラスになる。牧草は手を掛ければその分だけ赤字が増えるので、ちょうどいいバランスで止めているわけさ。そもそも、この辺の農家の経営規模で、飼料畑で食うなんて不可能。そんなことは行政だって知らないはずがないよ」
15年ほど前、手稲前田地区の農家は平均で3〜4ヘクタールの耕作面積を持っていたが、相続などにより現在はかなり細分化している。地元に残る元農家はみな高齢なので、今後はさらに不在地主が増え、所有面積もより小さくなっていく。
札幌市農政のお役人は、こうした現状を把握した上で計画案を立てているに違いない。どんな作文が披露されているものやら、縦覧中の計画案の内容を知るのが楽しみでならない。

写真=酪農団地は廃業し、その前面の優良農地は札幌市の公共事業でこんな様子(10月16日撮影)。札幌市の台帳上では農地がまとまっていても、農業経営の近代化が図られる見込みはゼロ、土地の農業上の利用の高度化が図られることは決してないのが手稲前田の農振地区だ。