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札幌市の「計画案」に地域の14人が異議

農振除外を求める理由の一部を公開する

手稲前田地区が農業に適さない理由とは

2月1日で札幌市の「農業振興地域整備計画案」に対する異議申出の期間が終わった。今後は、案の縦覧期間が終了して60日以内に、異議に対する扱いをどうするか札幌市が判断することになる。
異議の申出人は、手稲前田地区と近接地に住む14人となったが、遠方の非農家も含め土地所有者の大半が農振指定に反対であることは言を俟たない。
この地区の農家がほとんど廃農したのは何故なのか、農振地区外で営農している現役農家の連合地主会副会長が書いた「農業振興地域としての手稲前田地区の特性」と題する理由書が、それを端的に表していると思えるので、以下に紹介する。

深い砂地であること

 近年、この地域の畑地を掘り上げて埋め戻し、砂として売った人がいる。深さ8メートルは掘っただろうが、底にやっと水が湧いた状況であったことは札幌市農政もご存知だろうと思う。しかも、金気が強く真っ赤な水だった。
con9-1.JPG 深さ12メートルほどの井戸を掘った宿根草の生産販売農家によれば、6年ほどで水が揚がらなくなった上に、金気を取る除鉄機が5ヶ月くらいで使用不能になる水質だったそうだ。現在、彼は札幌市の水道を使っているが、夏季はほぼ水道水を出しっ放しなので、運転資金は持ち出しになっているだろうと思われる。
 前田東とも呼ばれる手稲前田地区においては、6~30メートルの深さに2つの水脈があるが、ひどい金気のため揚水ポンプの寿命は短い。150メートルまで掘れば、金気はあるが塩分のため赤くなりにくい豊かな水があるが、アルカリ性なので園芸作物には適していない。かつて私は、この水を使って苺が全滅する憂き目に遭い、現在は札幌市の水道水で苺栽培を行っている。
 この地区が豊かな水田であった頃は新川から水を揚げていたので、新川の水を使える稲作であれば新規就農が可能かもしれない。手稲駅近くから進出してきたシクラメン農家は農林大臣賞も受けたが、どれほど水に苦労したか。水のために数千万円とも聞く投資をしたそうだが報われなかったことを考えると、この地区が新規就農に適していないことは明白である。

写真=浅井戸から地下水を汲み上げると、このような赤い金気水が出る。

酪農と芝生産農家について

 現在、この地区の酪農家は1軒である。平成にかけ2軒の酪農家が進出してきたが、酪農を放棄しており草地の管理は十分とは言えない。近接する石狩市の酪農家も廃業したようだ。
 残っている酪農家は親から受け継いだ飼育搾乳施設と借り入れ草地で経営を続けているが、我が家と同様に利益が出ているという話は聞かない。そもそも、草地を貸し出している側にとっては、賃料がたとえ無料でも土地を管理してもらえれば「罰金だ! 訴訟だ!」と農政から責められずに済むので、それだけでありがたいと思うのは当然。高齢化した百姓に対する政府のイジメ政策は十分に効果が上がっていると言える。
 あとは高齢化した百姓が土地を捨て売りするのを待って、政治家の息がかかった都市農家に買わせて開発し、利益を政治家と山分けすれば終了というところか。
 芝生産農家については行政の方がよく知っているので、どれほど水に苦労し投資をしたかだけ述べる。良い芝は十分な水と肥料と適切な管理が必要であることは素人でも分かる。深さ30メートルの井戸を掘り、できる限り散水は夜間に行っていたそうだ。日中に散水すると芝が赤く染まって光合成が進まなくなり、生育が悪くなるためである。
 牧草や芝生は乾燥に強いが、十分な水がなければ良い品質にはならない。井戸を掘って配管をめぐらし投資を続けたが、現在は優良な芝生が必要とされる場面が少なくなり、役目を終えたようである。

地区の欠点は水源に恵まれないこと

 私の父が「井戸を掘るのに補助するから」という農政の甘言に乗せられて農業振興地域に入る文書に捺印してしまったことは十分に理解できる。その約束が果たされることはなかったが、それほど切ない状況だったということであり、それは今でも変わりない。
 政府や自治体の農政が安い農地を確保し、新規就農希望者にタダ同然で貸与あるいは売却を目論み、自分たちが農業振興に力を入れているように見せたいのだろうが、良い水のないこの地区でどんな農業ができるのだろうか。アマチュアの市民農園なら金気水でもできるが、それも飽和状態にある。プロとしてこの地区に新規就農すれば、地獄を見るのは明らかだ。
 先人たちは儲けが出ないから子供達に農家を継がせなかった。その原因は水だ。札幌市は良い水がある農地を市街地に変え、水の悪い農地に農業を押し付けている。詳細に調査をせず、地図を眺めて適当に線引きされた前田東地区に農振は不要である。その点、将来展望のないこの地区に新たな補助事業を展開しないと決めた札幌市農政の判断は正しいと言える。
 輸送網の発達した今、札幌市内の条件の悪い農地は不要である。農業は条件の良い広い土地で低コスト・高収益を目指すべきであり、水道水で農業をするなど実に愚かだ。

 前田東(手稲前田)地区の高齢者が農業振興地域、農用地指定から解放されることを望みます。


農業で地獄を見たいなら手稲前田地区へ

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以上の理由書は、農業に不可欠な水に焦点を当てて書かれたものだが、この地域周辺の水の悪さは手稲区のホームページにある郷土史コーナーにも載っているほどだ。
札幌市は、農地中間管理事業で新たな担い手を呼び込もうとしているが、それがいかに罪作りなことか、これで分かるはずだ。
意欲のある農業者に地獄を見せたいのなら、手稲前田地区を紹介してはどうだろうか。
(つづく)

写真=手稲区役所の郷土史コーナー「ていねっていいね」にも、この地域が水で苦労してきた歴史が綴られている。
http://www.city.sapporo.jp/teine/tthanashi/honbun/hanashi07.html