札幌市の「農業振興地域整備計画案」はまだか!
宅地同然となった手稲前田地区で札幌市は何をするの?
現行計画はきちんと履行されたのかな
8月2日に開催された住民説明会の後、地主会役員らの間では「案の縦覧を経て平成29年12月頃の決定を目指しております」(6月6日付け札農政第5124号)という次の農振計画に対し、異議を申し立てることが確認された。
農振の網をかけただけで、手稲前田地区に対し農業基盤整備などを一切行ってこなかったことは、住民説明会で槍玉に挙げられた通り。ところで、「12月頃の決定」を目指していたはずの農振計画は、今(平成29年11月末)に至るも縦覧の開始日すら公表されていない体たらくだが、平成23年2月に決定された現行計画には地域農業に対する“公約”めいたものは何かあったのか。
農水省が出した「農業振興地域制度に関するガイドライン」(最終改正 平成28年3月30日付け農振第2462号)によると、農振の指定や計画の策定に際しては都道府県知事が基本指針に基づき基本方針を定めるとされており、基本方針を定めるにあたっては基本的事項を定めて、これに留意することが適当と考えられるとしている。
禅問答のようで何のことやら分からないが、要するに基本的事項としては、
・良好な営農条件の農地や農業用水を確保するために実施すべき農地整備等に関する構想を、地域の土地利用の方向性に即して明らかにしてね。(かなり大雑把に要約。以下同)
・広域的な見地から行うべき農業生産基盤の整備等を明らかにしてね。
・農業の近代化に必要な農業生産施設や流通加工施設等の整備について構想を明らかにしてね。
ほか、かなり微細な内容が盛られている。
市町村が定める「市町村整備計画」も、基本方針に適合するとともに、
地域の農林業者の意向が十分に反映されたものとすることが適当と考えられる。
などとされている。
写真=3方を市街化区域に囲まれている手稲前田地区。南東側の市街地周辺には原野商法の跡地が混在している。前田森林公園の北西側は廃棄物処分場や雪堆積場などの迷惑施設が集められている。(Googleマップより)
農政のお役人は気楽な稼業と来たもんだ
このガイドラインを見た上で、札幌市の現行計画に記載された手稲前田地区部分に目を戻すと、なかなかシュールで驚かされる。
「農業上の土地利用の方向」にある用途区分の構想は次のようになっている。
手稲前田地区周辺は市街化区域界、前田森林公園及び北区との区界に囲まれる平坦地で酪農が行われ、農用地は、主に飼料畑として利用されている。今後も飼料畑を中心とした土地利用を推進する。
手稲前田地区は札幌市手稲区と北区、隣接する石狩市の市街化区域に3方を囲まれ、残る1方は大規模都市公園の前田森林公園となっている。地勢的な誤りはないが、平坦地で酪農を行っているのは1戸だけなので、この表現では誤解を生む。
農用地は主に飼料畑だと言うが、約65ヘクタールという農振地域のうち、きちんと肥培管理(耕うん、整地、播種、灌漑、施肥、除草など)がされている農用地は、北区の農家に貸与されて小麦が栽培されている4ヘクタール弱だけだ。
飼料畑は30ヘクタール弱あるが、牧草ロールがつくられている土地は地域唯一の酪農家が1人で管理を請け負っている。有償・無償と利用形態はまちまちのようだが、さすがに1人では手が足りず施肥と刈り取りで精一杯。それ以外の一見して飼料畑に見える草地は、景観維持と防害虫対策のために土地所有者が費用負担して除草だけを行っている耕作放棄地というのが事態だ。
札幌市は今後も現在のような「飼料畑に見えなくもない」土地利用を推進するそうだが、その結果、地域が疲弊していっても一切責任を負わないのだから、お役人は気楽な稼業と言えなくもない。
写真=地域唯一の酪農家は牧草ロールを全て自家消費している。後継者もおらず、高齢者1人では施肥と刈り取りで精一杯のようだ。
上下水道完備の農振農用地で札幌市は何の事業を?
農業生産基盤の整備開発計画についてはどうか。
手稲前田地区は、草地造成・道路整備等の基盤整備はおおむね完了しており、飼料畑として利用されている。
酪農団地の汚水や雨水で畑を傷つけられて私が芝生産を断念した平成18年以降、この地域で客土を入れるなりの草地造成と言える投資をしたのは私が開設したパークゴルフ場だけだ。費用は全額自腹、パークゴルフ協会の公認コースとして札幌北部では屈指の人気を誇る屋外レジャー施設となり、手入れの行き届いた芝は「緑のある牧歌的風景」の創出に一役買っていると自負しているが、目的外使用とやらで農地法違反の行政指導を受けたのは腑に落ちない。
パークゴルフ場は最盛期で年間8,000万円近く、ここ数年も3,000万円近くを売り上げており約半分が利益となっているが、その底地である25ヘクタール弱を飼料畑にしたとしたら、せいぜい年間200万円程度の売り上げで収支は真っ赤のはず。悪徳役人にイジメられクレーマー扱いされてきた農民が、生き残りをかけて知恵を絞った土地活用を「農地法違反」の一言で切り捨てられるのだから、やはり農政は気楽な稼業と来たもんだ。
道路整備がおおむね完了しているというは、その通りだ。手稲前田地区には、農振農用地区域に指定される前年に道立札幌手稲高校が開校し、その後も平成10年に道立札幌高等養護学校、平成18年に前田森林公園の拡張部分が農用地を潰して誕生している。
大規模な公園や学校がある上に市街化区域に囲まれていることから、主要幹線道路である石狩手稲線(道道44号線)は当然として、農振地域内の市道はいずれも抜け道として一般車両に利用され交通量が多い。そのためか、生徒が安全に登下校できるように地域のほぼ中央にある養護学校が面する前田2線は、片側にしかなかった歩道を反対側にも整備中だ。
養護学校ができたことで地域のインフラ整備はさらに進み、今や手稲前田地区の農用地ではほぼ全域で上下水道を利用できる。農政とは全く関わりないことだが、都市機能を強化する基盤整備がおおむね完了しているというのは、確かにその通りだ。(つづく)
写真=札幌高等養護学校が面する前田2線は反対側にも歩道を整備中。新琴似2番通と前田森林公園を結ぶこの道は、小樽方面と札幌市街を結ぶ抜け道として一般車両の交通量も多い。